JST CREST領域内研究交流報告 ― 内受容・予測的処理とNarrabody理論の接点 ―
2026年2月17日、JST CREST「生体マルチセンシングシステムの究明と活用技術の創出」領域における研究交流の一環として、名古屋大学・大平英樹教授研究室を訪問し、理論的および実証的討議を行いました。
大平教授らは「多様な迷走神経情報から創発する内受容感覚の脳統合」プロジェクト(代表・佐々木拓哉 東北大学教授)を推進しており、内受容感覚および予測的処理を基盤とした脳―身体―情動統合の神経機構を明らかにすることを目的としています。本交流は、我々が推進するNarrabodyプロジェクト(身体を媒介とした時間的自己再構築の理論化・実証化)との理論的接続可能性を検討する重要な機会となりました。
今回は、森岡グループから、森岡周、大住倫弘、佐々木遼(JST特別研究員)、大西空(CREST特任研究員)、産屋敷真大(修士課程)が参加しました。
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当日は、以下のテーマについて発表を行い、活発な議論が交わされました。
- 脳卒中回復過程におけるナラティブ変容
森岡(大西)は、脳卒中患者における運動機能回復過程とナラティブ変容の関連について話題提供しました。
本発表では、機能回復と主観的回復の乖離に着目し、運動機能の改善が単なるパフォーマンス向上にとどまらず、「時間的自己モデル」の再構築過程に関与する可能性を提示しました。また、内受容感覚の変化が自己物語の再編とどのように同期するかについて、意見交換しました。
- サーマルグリル錯覚と予測誤差モデル
佐々木研究員は、サーマルグリル錯覚を用いた痛みの質的評価と予測誤差との関連について報告しました。
特に、内受容予測モデルの不整合が主観的痛み経験の質を規定し得ることが示唆されました。議論では、内受容予測誤差の再重み付けが重要論点となりました。これは、予測誤差を単に最小化する対象としてではなく、「意味生成過程の一部」として再解釈するNarrabodyの理論的立場と接続するものです。
- 脳卒中患者における身体感情の評価枠組み
産屋敷(修士課程)は、脳卒中患者が自身の身体に抱く感情の構造について報告しました。身体への否定的感情は、単なる情動反応ではなく、身体所有感や行為主体感の回復過程でもあり、それは時間的自己連続性の再構築と密接に関連する可能性があります。今後は、内受容指標・行動指標・ナラティブ評価を統合した多層的評価枠組みの構築が課題であり、その方向性を意見交換しました。
- 慢性疼痛における脳内ネットワーク再編
大住准教授は、慢性疼痛患者における脳内機能ネットワークの異常結合について報告しました。異種ネットワーク間の機能的過結合が、症状の持続や多様性に関与する可能性が示されました。Narrabodyの視点からは、これを「神経ネットワークの異常」ではなく「時間的自己モデルの固定化」として再解釈する理論的展開の可能性が議論されました。
本領域横断的対話は、神経科学・リハビリテーション科学・現象学的自己理論を統合するための基盤をさらに強化するものとなりました。
今後は、マルチセンシング指標とナラティブ評価を統合した実証研究へと展開する予定です。