ABOUT 提案研究の概要
本研究では、物語(ナラティブ)が身体的自己に影響を与えるメカニズムを解明し、リハビリテーションの革新とVR介入技術の開発を試みます。脳活動、心理生理学的反応、運動パフォーマンス、主観的経験の情報を統合的に取得することによって、ナラティブが脳・身体・主観の変化を引き起こすプロセスを明らかにすることを目指します。
物語的自己と身体的自己の統合プロセスを脳・身体・主観的データから解明し、
VRを用いたリハビリテーション技術開発を目指します
バーチャルリアリティ(VR)や映画などで勇者やスーパーマン、賢い学者になったり見たりする物語的体験をすると、自分の行動や性格もそのキャラクターのように変化する(たとえばスーパーマンになる体験をすると、人助け行動が増える)ことが報告されています。
本研究では、物語(ナラティブ)的体験がトップダウンに身体的自己に影響を与える現象を「ナラティブ・エンボディメント」と定義し、そのメカニズムの解明を目指します。特に脳活動、生体信号、運動機能などの身体的情報と現象学的インタビューによる主観的ナラティブ情報を統合的に取得し、物語的自己(ナラティブセルフ)の状態変化と共に生起する脳/生理/行動指標の変化を特定することを通じて、ナラティブ・エンボディメントの機序を明らかにします。
さらに、ナラティブ・エンボディメントを効果的に応用してリハビリテーションを促進するVR介入技術を開発します。これらを通じてリハビリテーションの革新を実現し、患者のQOL向上や健康寿命の延伸を目指します。
GROUP
東洋と西洋におけるナラティブ
エンボディメントの比較
日本側
- 明治大学理工学部
- 東海大学文明研究所
- 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター
東洋と西洋におけるナラティブ
エンボディメントの比較
フランス側
- リヨン神経科学研究センター
- リヨン高等師範学校
- リヨン大学リハビリテーション病院
本研究は日本とフランスの共同プロジェクトであり、認知神経科学G、現象学G、ニューロリハビリテーションGの日仏3グループずつの研究体制で進めます。各分野における卓越した研究力と、分野の垣根を超えた連携・共同研究を通じてナラティブ・エンボディメントの理解とリハビリテーションへの応用を進めます。さらに両国の専門知識とリソースを活用することで、東洋と西洋における「自己」と「ナラティブ・エンボディメント」の文化的差異と共通点の理解を深めます。
THEME 研究テーマ
認知神経科学グループ
認知神経科学グループは、脳活動、身体活動、現象学的インタビューを統合的に計測・解析する技術を開発します。ナラティブ・エンボディメントのメカニズムを解明するため、健常者を対象として脳波(EEG)や近赤外分光法(NIRS)を用いて脳活動を測定し、心拍などの生理・行動データやインタビューとの同時計測を行います。さらにVRを用いてリハビリテーション効果を促進するナラティブ介入技術を開発します。
現象学グループ
現象学グループは、患者のナラティブを質的にデータ化する現象学的インタビュー手法を開発します。日仏で共通して使用できる半構造化インタビューを開発し、患者のナラティブがリハビリテーションの回復過程にどう影響するかを調べます。ナラティブデータの質的分析を通じて患者のナラティブ遷移モデルを構築します。これらを通じて東洋と西洋における「自己」や「ナラティブ」の概念について哲学的な洞察を深めます。
ニューロリハビリテーション
グループ
ニューロリハビリテーショングループは、患者の脳・身体・ナラティブデータを縦断的に計測し、回復過程を追う研究を現象学Gと協力して実施します。ポジティブなナラティブを持つ患者は比較的予後が良いことが逸話的には知られており、この科学的エビデンスを得ることを目指します。本研究では特に歩行や上肢運動の回復過程に着目します。さらに、認知神経科学Gで開発されたVRアバターを用いたナラティブ介入技術を適用し、その効果を検証します。